 | 2棟のビルから立ち上る煙。積み木のように崩れ落ちていくワールド・トレード・センターの映像を見ながら、それが真実と信じられなかったのは、たった6年前の現実です。 本作は、9.11のテロ事件でハイジャックされた4機の航空機のなかで、唯一、目標に到達することなく墜落したユナイテッド航空93便の物語です。 そこに映し出された、何の飾りもない生々しい真実は、圧倒的な臨場感を持って観客の胸にのしかかってくるように感じます。 監督は、『ボーン・シリーズ』のポール・グリーングラス。 出演者に大物スターは存在せず、この機に搭乗した乗客の年齢などを考慮して選ばれた俳優たちと、実際のパイロットや管制官を起用しているとのことです。
2001年9月11日。ニューアークの空港は、朝の喧騒に包まれていた。離陸の準備を整えたユナイテッド航空93便は、40名の乗客を乗せ、サンフランシスコへ飛び立つ。その直後、ワールド・トレード・センターに2機の民間機が激突した。その頃、ユナイテッド93便の機内でも、テロリストが爆弾を持って操縦室を制圧。機内は混乱に陥るが、地上で起こっている事態を知った乗客と乗員たちは、わずかな武器を手に立ち上がった…。
ある意味「9.11同時多発テロ」映画の、決定版とも言える作品かもしれません、説明にも書いたように”徹底した臨場感と飾りの無い映像”で、ハイジャックされた4機の航空機のなかでただ1機目標に墜落しなかったユナイテッド93便の、物語を綴っています。 ペンシルバニア州の郊外に墜落したユナイテッド93便には生存者が1人もいなかったために、本作のスタッフは事件に対処した連邦航空局や軍の関係者から機内にいた犠牲者と電話で話した遺族・友人まで、徹底的に取材をしたらしいです。 墜落までの約2時間を可能なかぎり正確に再現することを、極めて慎重にめざしたとか、俳優陣もあえて無名俳優で固めて、連邦航空局のB・スライニーら事件の当事者たちも本人役で出演させるなど、徹底的にリアリズムにこだわりました。 そのお陰でポール・グリーングラス監督はアカデミー監督賞候補になったわけですから、ある意味その手法は成功したと見るべきでしょうね。 実際にあの”ユナイテッド93便”の中でどのような会話がなされて、どういった経緯で目標と思われた国防総省ペンタゴンに墜落しなかったのかなど、ナカナカ興味深い事もわかりました。 ですが・・・・・・、あまりにリアリティーを追求するあまりに画面がサッパリしているというか、なにかとても乾いた印象を受けました。 だからドラマティックさを感じないんですよ、あまりに俳優さんたちの演じ方がもいい意味で自然なので、なにか平然と言うか淡々とドラマが進んで行ってしまうので感動が薄れて行ってしまうんですよ。 その”リアリティー”がこの映画の売りの一つではあるのでしょうが、管制官や軍や航空局の上層部はあんな大事故の時に落ち着き過ぎていて、この事件がとてつもなく大きな災害の一部であることに気づくのが遅かったんだなぁとか、この飛行機が乗員乗客たちの勇気と力だけでアメリカを救ったのに、軍や大統領が指令を出した時にはこの機は墜落してから何時間も経った後だったのかなど・・・・・・。 映画自体はとても無駄が無くてスマートな印象を受けましたが、「9.11同時多発テロ」の犠牲者に捧げる映画として以前ここでもお勧めしたホアキン・フェニックスとトラボルタが主演の、「炎のメモリアル」という映画があります。 この映画も「9.11同時多発テロ」の現場で、英雄的な活躍を繰り広げた名も無き消防士たちへ捧げられたレクイエムですが、この映画には「9.11同時多発テロ」に関する事や言葉は一切出てきませんが、とても”名も無きヒーロー”達に捧げられた映画としては良く出来ていると感じました。 あちらの映画の方が、この「ユナイテッド93」よりもこちらに伝わってくるものがあったと思います、しかしこの「ユナイテッド93」も「炎のメモリアル」に負けないくらいの映画ではあると思います、お勧めします。
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