 | そのユニークな人物設定と物語世界が一躍評判を呼び、第1回本屋大賞にみごと輝いた小川洋子の同名ベストセラー小説を、「阿弥陀堂だより」の小泉尭史監督が丹精をこめて映画化した作品です。 不慮の事故が原因で記憶がたった80分しかもたなくなってしまった天才数学者と、彼のもとで働くようになった子連れの家政婦とが、不思議な心の絆を取り結んでいく様子を、情感豊かに描いています。 主演は「 半落ち」の寺尾聰に「踊るシリーズ」の深津絵里、「辺境役者」の吉岡秀隆に浅丘ルリ子らの好演も、爽やかな感動を誘っています。
10歳の息子を女手ひとつで育てながら家政婦として働くシングルマザーの杏子(深津絵里)。彼女は新たな仕事先を紹介され、不慮の事故が原因で記憶が80分しかもたなくなってしまった、ひとりの風変わりな天才数学博士(寺尾聰)の身の回りの世話をするこなる。彼は記憶の欠陥を補うため、忘れてはならない事柄をメモしては自分の着ている服にあちこち貼り付け、また、自分のお得意の数式をしばしば話題にしながら、他人と独自のコミュニケーションをとって生活していた。そんな彼の変わったやり方にはじめは面食らいながらも、杏子は次第に博士の人柄に魅せられていく。一方、博士も、杏子の息子(齋藤隆成・吉岡秀隆)をルートと名づけて可愛がるようになるのだが…。
この映画、面白いと思ったら僕が日本映画の名作の一本だと思っている『雨あがる』の小泉尭史監督と、「ルビーの指輪」の寺尾聰がまたコンビを組んだんですね、実は「阿弥陀堂だより」未見なので早く観たいと思います。 とにかく数字と数学が大好きな博士で、杏子の靴のサイズを「24」だと聞くと「潔い数字だ」と微笑む博士、記憶が次の日には無くなっているので毎朝杏子に会うと尋ねては、「潔い数字だと微笑む」博士。 そのうち杏子や観ているこちらも覚えてきて、「靴のサイズは”24”で、4の階乗です」と、暗記して答えてしまいました。 深津絵里さんの演技もとても良かったです、『 踊る大捜査線 シリーズ』の前からも演技力には定評ありましたが、博士を特別な存在と意識しながらも”大切なお友達”として徹底して接し、まっすぐに生きようと努力する良き母であり良き人間です。 博士にも愛情を注ぎますがそれは友人としての愛情、博士への感情はどこまでが友達なのかは分かりませんが、決して一線は越えてはいけないと自分に言い聞かせているようでもありました。 博士と過去に何かあったと思われる未亡人を演じた浅丘ルリ子も良かったです、最初は杏子の存在や行動に嫉妬にも似た感情を抱きますが、やがてお互いに打ち解けてルートの誕生日に博士に頼まれたグローブを贈ります。 その時杏子(深津絵里)は未亡人(浅丘ルリ子)をルートと博士と杏子の誕生会に招きます、未亡人はこの申し出をやんわりと断るのですがそれまで堅く閉ざしていてた"母屋の戸"の出入り口を、これからは開けておくからと言って去ります、それは杏子に「これからは家の中を自由に行き来して構わない」という事をあらわしています。 と同時に、それまで頑なに杏子や世間に閉ざしていた心の扉も、未亡人が開いた瞬間だと感じて胸が熱くなるものがありました。 博士の愛と情熱によって数学を愛するようになったルート(齋藤隆成)は、やがて大人になって数学の教師となるのですが、このルートを物語の狂言回し(ここでのルートは吉岡秀隆)として使ったのが良かったですね。とても落ち着いた青年となったルートは、博士の愛した数式や数学を愛して生徒達に熱っぽく博士や自分達親子の事、そして数学や数式の事を話します。 「辺境役者」の吉岡秀隆クンも、"純クン"や"満男"から脱皮して素晴らしい役者さんになりましたね、ここでも落ち着きながらも母の杏子や博士を愛しながらもシッカリと自立した、大きくなったルートを好演していました。 「50回目のファースト・キッス」にも似た設定でしたが、全く違ったこちらも素晴らしい映画になっていました、ラストの江夏の背番号28をつけた博士とキャッチボールをする大人になったルート、それを暖かく見守る杏子と未亡人の姿も爽やかでした、お勧めします。 |