 | 今年の最優秀主演女優のプレゼンターを務めた、去年のオスカー男優エイドリアン・ブロディのパフォーマンスは最高でしたね、それと去年受賞した時のスピーチも。 「この映画は、ウワディスワフ・シュピルマンが第二次世界大戦で生き残ったことに対する賛辞です。戦争はいつでも哀しみを人々に与え、非人間的な行為をさせてしまう。あなたが神かアラーのどちらを信じようとも、あなたたちを見守ってくれているでしょう。一緒に平和的で迅速的な解決を祈りましょう。」と、ブロディ君(僕よりも3歳年下)は退場を促すバンド(ステージのすぐ下にあるでしょ)の演奏をとめて、こう訴えかけました。僕はこのスピーチを、一字一句間違えて皆さんにお教えしたくなかったので、3時間近くネットを探し続けました。 さて、皆さんは「戦場のピアニスト」と聞いて何を思い浮かべましたか?僕はナチス政権下のポーランドで、ユダヤ人の青年がピアニストであることで(例えばナチス・ドイツのバーやクラブなど)、何か憤りを感じながらも生きながらえていく物語かと思いました。また、監督がロマン・ポランスキーだというのを聞いて、もしかしたら恐怖映画かな?とも思いました、ところが実際はゲットーで生き延びたユダヤ人青年の映画で、その彼の職業がピアニストだったという、淡々とした映画でした。 ソダーバーグ監督が「エリン・ブロコビッチ」を監督した時に、僕がこんな映画もつくれるんだーといった驚きを、今回も受けました。 舞台は1939年、ナチス・ドイツがポーランドを侵攻したところから始まる。ワルシャワの街がナチスに占拠されるとともに、ユダヤ人に対する迫害が始まった。翌1940年、ピアニストウワディスワフ・シュピルマン(エイドリアン・ブロディ)と彼の家族をを含めたユダヤ人達に、ゲットーと呼ばれるユダヤ人居住区への移住命令が出される。そこでは理不尽で凄惨な残虐行為が、ナチスによって日々当たり前のように繰り返される。 そして1942年、シュピルマン一家は家族で収容所へ送られることになる。だが列車に乗せられる直前にシュピルマンだけ助けられ、それを免れることに。 家族と離れ離れになった彼は、色々な人達の強力でのちにゲットーから脱出し、隠れ家に身を寄せる。その翌年(画面に大きく年代と日時が出てきます)ワルシャワ隆起が始まり、ついに街は戦場へと身を変える、独りぼっちでサバイバルを続けるシュピルマンは、再びピアニストとして生きてゆく事が出来るのだろうか・・・。 僕の予想は見事に外れましたが、素晴らしい映画だったと思います。 ロマン・ポランスキー監督のアカデミーの監督賞受賞は、2つの驚きをもって迎えられました。1つは当時アメリカはイラク戦争開戦間もない頃で、反戦映画の受賞は控えられるとの見方が多かった事。そしてもう1つは彼が1977年に犯したとされる少女レイプ事件で逮捕され、保釈中にアメリカを逃亡してヨーロッパへと渡ったため、入国すれば50年の禁固刑を言い渡されるというためです。 ここで少しポランスキー監督の生い立ちについて、書きたいと思います。 ポランスキーはパリでポーランド系のユダヤ人として生まれ、第2次世界大戦が始まるとともに両親は強制労働所送りとなり母はそこで死亡、わずか7・8歳でポーランド郊外のカトリック系の家庭を転々とする。戦後父と再会を果たすが、この体験がこの「戦場のピアニスト」に繋がったのだろう、スピルバーグが「シンドラーのリスト」をつくったのと同じ、一種の宿命だったのかも知れないですね。 1969年に「吸血鬼(ポランスキーも助手役で出演)」という映画(なかなか面白いですよ)で共演した、シャロン・テイト(物凄く可愛くて綺麗な人です)と恋に落ちて結婚。しかしその愛妻シャロン・テイトが、カルト集団チャールズ・マンソンファミリーに惨殺されるというショッキングな目にあってしまいます、どうやらそれもレイプ事件と繋がっていくらしいのですが、そこのあたりのことは割愛させていただきます、正直言うと良く分かりません。「ローズマリーの赤ちゃん」や「ナインス・ゲート」など、ホラーやオカルト映画も撮らせたら上手いですね(ナインス・ゲートはイマイチでしたが)。 この映画ですが、とにかくブロディ君演じるシュピルマンが逃げる逃げる、ただひたすらナチスから逃げます。カメラの長回しやただひたすらに主人公の姿を追っていくのは、かなり凄い迫力だと思います、ストーリーで感動させるのではなく主人公がただ生き延びたい一心で逃げる姿に感動させられます。 きっとこのあたりはポランスキー監督が伝えたかったことなんじゃないかな、戦争っていうのはこんなもんだって、そんな感じがします、それを見事にブロディ君が演じています。本当に難しい主人公を、淡々と流れるストーリーの中で一人だけ必死に逃げ回るシュピルマンを、上手に演じきっています。 最後に彼はドイツ軍の将校に助けられ(詳しい事は映画で観てください)、彼は無事に生き残れることとなります。しかしラストではそのドイツ将校を見殺しにしたような印象を与えますが、本当はシュピルマンは探したそうです、ただあえてそのシーンを入れずにテロップ数行で済ませたのは、ポランスキー監督のこの映画に対する思いのように感じます。 その挿話をつくったほうが良かったとか、テレンス・マリックの「シン・レッド・ライン(映像は美しいですが中身はない映画だと思います)」と比較している人もいるみたいですが、あの映画とは全く違うと思います、似ているなんていう人は映画の解説をする資格は無いと思います。 こんな戦争映画、滅多にお目にはかかれないと思います、ただひたすらに逃げる主人公のピアニストをご覧になっては如何ですか?是非おすすめします。 |