 | この「海を飛ぶ夢」という作品は、一生の半分をベッドの上で過ごし、自ら死を望んだ実在の人物、ラモン・サンペドロの手記をもとに描いた真実のドラマです。 今もなお、スペインでは法律で認められていない「尊厳死」をめぐり、生と死の意味を問いかける作品です。 顔以外に動かすことが出来ないうえ、実年齢より20歳以上も年上のラモンを演じることになったハビエル・バルデムは、その強い瞳と豊かな表情でラモンを演じきり、ゴヤ賞主演男優賞に輝きました。 元は彼がラモンを演じるのには無理がある、なんて言われていたそうです。でもバルデムは見事にラモンを演じ切っていました、ハビエル抜きではこの傑作は生まれていなかったと思います。 監督のアレハンドロ・アメナーバルは、現代スペイン映画を代表する若手です、メチャクチャいい男です。ゴヤ賞では監督賞・脚本賞を受賞し、アメリカのアカデミー賞やゴールデン・グローブ賞では外国語映画賞を受賞しました。 スペイン北部、ガリシアの澄んだ海に、生きる目的や人を愛する意味、残される家族と友人たちの思いが果てしなく飛びかう、心に残る感動作になっています。
スペイン、ラ・コルーニャの海で育ったラモン・サンペドロは19歳でノルウェー船のクルーとなり、世界中を旅して回る。だが1968年8月23日、25歳の彼は岩場から引き潮の海へダイブした際に海底で頭部を強打、首から下が完全に麻痺してしまう。以来、家族に支えられながらも、ベッドの上で余生を過ごさなければならなくなったラモン。彼にできるのは、部屋の窓から外を眺め、想像の世界で自由に空を飛ぶことと、詩をしたためることだけ。やがて事故から20数年が経ち、彼はついに重大な決断を下す。それは、自ら人生に終止符を打つことで、本当の生と自由を獲得するというものだった。そしてラモンは、彼の尊厳死を支援する団体のジェネを通じて女性弁護士フリアと対面し、その援助を仰ぐことに。また一方、貧しい子持ちの未婚女性ロサがドキュメンタリー番組でのラモンを見て心動かされ、尊厳死を思いとどまらせようと訪ねてくる…。
僕がこの映画を好きになったのは、決して”尊厳死”が素晴らしいと、声高に訴えているのではないところです。彼を愛するフリアとロサ(ロラ・ドゥエニャス )は、彼に生きていて欲しいと思う反面、彼の”自由になりたい”という気持ちを理解して(理解したい)、ラモンの気持ちを尊重したいとも思います。 彼の兄でラモンに生きていて欲しいと思っているホセと、その妻でラモンの世話をしているマヌエラも、二人の息子でラモンの甥のハビも、複雑な気持ちと眼差しでラモンを見つめます。 最初に書いたように、この映画は”尊厳死”を素晴らしいことだと描いているのではありません、もしそうなら身体の不自由な障害者である僕らも、”尊厳死は素晴らしいこと”なんて思わなければいけなくなりますからね。 この映画は、長い長い戦いの果てにラモンが、自らの意思と希望で”自由”を手に入れたと言うことを描いています。「ミリオンダラー・ベイビー」にも、このくらい時間をかけて一つの”尊厳死”というテーマに取り掛かって欲しかったです。 ラストのラモンが空を飛ぶシーン、あのシーンは一生心に残っていると思います、お勧めします。
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